前回は、スタットキャストが計測するボールの物理データ(球速、回転、変化量など)について解説しました。今回は、そのデータを使ってスタットキャストがどのように球種を分類しているのか、そしてそれが「半速球」という言葉とどう関わってくるのかを見ていきましょう。まずは、野球の基本、速球系のボールからです!
スタットキャストは、計測したデータをもとに、投げられたボールを「フォーシーム」「シンカー」「カッター」といった具体的な球種(Pitch Type)に分類します。これは、「半速球」のような曖昧な表現よりもずっと客観的で分かりやすい基準を提供してくれます。主な球種には、フォーシーム(FF)、シンカー(SI)、カッター(FC)、スライダー(SL)、カーブ(CU)、チェンジアップ(CH)、スプリッター(FS)、スイーパー(ST)、ナックルカーブ(KC)などがあります。
スタットキャストによる速球系の分類
- フォーシーム・ファストボール (Four-Seam Fastball / FF):
- どんな球?: いわゆる「ストレート」。基本中の基本で、通常ピッチャーが投げる最も速いボールです。人差し指と中指をボールの縫い目(シーム)に対して垂直に当て、きれいなバックスピンをかけて投げます。理想的なバックスピンがかかると、重力に逆らうように見え、バッターにはボールが「ホップ」してくるように感じられます(実際には浮き上がってはいません)。この「伸び」や「キレ」には高い回転数が関係していることが多いです。
- データの特徴: 高い球速。バックスピンによる「平均比較垂直変化量」がプラス(=落下が少ない、ライズ)。回転数はピッチャーによりますが、一般的に高め(MLB平均で2250 RPMくらい)。
- 役割: ピッチングの基本。威力で押す、空振りを取る、他の変化球を活かすための布石。
- シンカー (Sinker / SI) / ツーシーム・ファストボール (Two-Seam Fastball / FT):
- どんな球?: フォーシームとほぼ同じくらいのスピードですが、握りを変えることで、ピッチャーの利き腕方向に曲がりながら(シュート/テール)、フォーシームよりも大きく沈む(シンク/ドロップ)ボール。ゴロを打たせやすいのが特徴です。ツーシームとシンカーは非常に似ていて、ほぼ同じものとして扱われることもあります。
- データの特徴: フォーシームに近い球速。利き腕方向への水平変化が大きい。フォーシームより「平均比較垂直変化量」が小さい(またはマイナス)=より沈む。回転数はフォーシームよりやや低い傾向。
- 役割: ゴロアウトを狙う、バットの芯を外させる。
- カッター (Cutter / FC):
- どんな球?: カット・ファストボールとも呼ばれる、速球の一種。フォーシームやシンカーよりほんの少しだけスピードが遅いことが多いです。最大の特徴は、ストレートの軌道から、バッターの手元でピッチャーの利き腕と反対方向(グラブサイド)へ小さく、鋭く曲がること(カット)。スライダーほど大きくは曲がりません 。
- データの特徴: 速球に近い球速。グラブサイドへの比較的小さな水平変化。垂直方向の変化(沈み)はフォーシームに近い。
- 役割: バットの芯を外す、弱い打球を打たせる。特に、逆の腕のバッター(右投手vs左打者など)の内角に投げると、バットを詰まらせたり、折ったりすることも。あの伝説の抑え投手、マリアノ・リベラ選手の代名詞でしたね。
「半速球」との関連は?
これらの速球系の中で、「半速球」という言葉が使われるとしたら、どんな場合でしょうか?
- カッター(FC): 速球より少し遅く、変化もするので、「半速球」と表現されることがあります。
- 球威の落ちたフォーシーム/ツーシーム: ピッチャーが疲れてきたり、調子が悪かったりして、本来のスピードやキレがないストレートは、「打ちごろの半速球」なんて言われてしまうかもしれません。
速球系ボールのデータ比較(MLB平均/典型的範囲)
球種 |
略称 |
平均球速 (mph) |
平均水平変化 (in) ※捕手目線 |
平均垂直変化 (in) ※捕手目線, 重力込 |
平均回転数 (RPM) |
主な変化方向/特徴 |
フォーシーム |
FF |
93-96+ |
< 8 (左右対称に近い) |
< 45 (落下小, "ライズ") |
2200-2600+ |
直線的、ライズ |
シンカー/ツーシーム |
SI/FT |
92-95+ |
10-18 (利き腕方向) |
45-55 (FFより落下大) |
2100-2300 |
利き腕方向への変化(シュート/テール)、沈み込み |
カッター |
FC |
90-94 |
1-6 (グラブサイド方向) |
40-50 (FFに近い落下) |
2200-2500 |
グラブサイドへの小さく鋭い変化(カット) |
注: これはあくまで一般的な目安です。変化量はStatcast基準(重力込み、捕手目線)。水平変化の正負は右投手の場合、負がグラブサイド(左打者方向)、正が利き腕サイド(右打者方向)。垂直変化は値が大きいほど落下大(FFの"ライズ"は値が小さい)。
次回は、チェンジアップやスライダーなど、変化球・オフスピード系のボールについて、スタットキャストがどう分類し、「半速球」のイメージとどう重なるのかを見ていきます。お楽しみに!