川越大吾の醍醐味ブログ

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 データ分析に基づく投球術:緩急と心理戦で打者を制する

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前回までで、スタットキャストが捉える様々な球種のデータ上の特徴を見てきました。今回は、それらの球種が実際の試合でどのように使われているのか、ピッチングの戦略的な側面をデータで読み解いていきましょう。

「半速球」という言葉がよく「緩急」や「タイミングを外す」といった意味合いで使われるように、これらのボールはバッターを打ち取るための重要な戦術の核となっています。

  1. バッターのタイミングを狂わせる(緩急)

ピッチングの基本戦術「緩急」。これは主にボールのスピード差を使って、バッターのスイングのタイミングをずらすことです。この役割の中心となるのが、チェンジアップ(CH)スプリッター(FS) です。

これらのボールは、ピッチャーがストレートと同じ腕の振りで投げてくるのに、実際のスピードはかなり遅い。だからバッターは「ストレートが来た!」と思って振ってしまうと、タイミングが合わずに空振りしたり、バットの先っぽに当たって弱いゴロになったり、打ち上げてしまったりするわけです。特にチェンジアップは、ストレートとの球速差(Velocity Differential)そのものが最大の武器。バッターの予測を裏切るのに非常に効果的です。

  1. バッターのバット軌道を狂わせる(変化による欺瞞)

タイミングだけでなく、ボールの変化でバットの芯を外させるのも重要な戦略です。この役割を担うのが、カッター(FC)スライダー(SL)、そしてスイーパー(ST) などです。

  • カッター(FC): ストレートに近い軌道から、バッターの手元で小さく鋭く曲がる。バッターはストレートだと思って振りにいったバットの軌道からボールがズレるので、芯を外されたり、詰まらされたりします。特に逆の腕のバッターの内角に食い込むカッターは、バットを折りやすいことでも有名です
  • スライダー(SL) / スイーパー(ST): これらはもっと大きく横や縦に変化します。この大きな変化は、バッターがボールの最終的な到達点を見極めるのを難しくし、空振りを誘ったり、弱い打球を打たせたりするのに有効です。特にスイーパーは、その大きな横変化でフライや内野フライを打たせやすいというデータもあります
  1. 「ピッチトンネル」の重要性

これらの球速差や変化を最大限に活かす上で、「ピッチトンネル」という考え方がすごく重要です。これは、ピッチャーの手からボールが離れてから、バッターが「あ、これはストレートだ」「これはカーブだ」と判断するポイント(リリースから約7メートル地点くらいと言われます)まで、違う球種でもできるだけ同じ軌道に見せる技術のこと

 

リリースポイントを安定させ、ストレートと変化球の最初の軌道を似せることで、バッターはギリギリまで球種を判断できなくなります。そうすると、チェンジアップの球速差やスライダーの変化が、より効果的になるんです。例えば、ホップするストレートと縦に割れるカーブ、沈むシンカーと同じ軌道でさらに遅く沈むチェンジアップ など、効果的な組み合わせはこのピッチトンネルによって威力を増します。

  1. 配球(シーケンシング)と球種構成(ピッチミックス)

もちろん、どのボールをどの順番で投げるか(シーケンシング)も重要です。ストレートを見せておいてチェンジアップ、とか、変化球でカウントを稼いでストレートで決める、とか。

また、先発ピッチャーは同じバッターと何度も対戦するので、リリーフピッチャーよりも多くの球種を持ち、より多様な組み立てをする必要があります。「半速球」的な役割を持つボールも、この幅広い球種構成(ピッチミックス)の一部として機能します。

  1. 効果を測る指標

個々の球種がどれだけ効果的だったかを測る指標もあります。

  • ピッチバリュー (Pitch Value / wFB, wSLなど): FanGraphsというサイトで使われている指標で、その球種が投げられた結果、得点期待値(どれくらい点が入るかの期待値)がどう変わったかに基づいて、その球種の貢献度(失点をどれだけ防いだか/増やしたか)を評価します。wFB/Cのように100球あたりに直すと、投げる頻度が違う球種同士も比較しやすくなります。(Pitch Type Linear Weights | Sabermetrics Library - FanGraphs,  https://library.fangraphs.com/offense/pitch-type-linear-weights/

  • スタットキャストデータ: 空振り率(Whiff%)、三振を取った割合(Put Away%)、打たれた打球の質(xwOBA on Contact)、ゴロ/フライ率(GB%/FB%)など、その球種がどうやって成功(または失敗)しているかを具体的に分析できます。
  1. 球種は互いに助け合う

ここで強調したいのは、チェンジアップやスライダーのようなボールの有効性は、組み合わせるストレートとの関係に大きく左右されるということです。良いチェンジアップにはストレートとの十分な球速差が必要だし、良いスライダーやスイーパーにはストレートとの適切な変化量の差が必要です(ただし、変化の差が大きすぎると逆効果な場合も)。そして、その差を活かすにはピッチトンネルによる軌道の一致が不可欠

つまり、「半速球」的なボールを評価するときは、それ単体で見るのではなく、そのピッチャーが持つストレートとの組み合わせ、つまり投球レパートリー全体の中で考える必要があるんです。

  1. データが作る新しいボール:ピッチデザイン

最近のトレンドとして、スイーパーのように特定の変化を追求したボール や、ストレートと変化球のギャップを埋めるためにカッターを覚える といった動きがあります。これは、ピッチャーやコーチがスタットキャストなどのデータ を見て、「どうすれば自分のボールがバッターにとって一番打ちにくくなるか」を考え、意図的に球種を設計(ピッチデザイン)している証拠です。

これは、たまたまそうなってしまったかもしれない「半速球」(例えばキレのないストレート)とは対照的。現代の多様な変化球の多くは、偶然ではなく、データに基づいた戦略的な意図を持って生み出されているんですね。

次回は、視点を変えて、バッターがこれらの「半速球」的なボールにどう立ち向かっているのか、そして「打ちごろの半速球」とは何なのかを探っていきます!