これまで、「半速球」という言葉をきっかけに、スタットキャストのデータを使って様々な球種の特徴や戦略、バッターとの駆け引きを見てきました。今回は、まさに「半速球」的なボール、つまり巧みな緩急や打者を惑わす変化球を武器に、メジャーリーグで大活躍した(あるいはしている)名ピッチャーたちを紹介します。彼らのスゴさを、スタットキャストのデータと結びつけて見ていきましょう!
- マリアノ・リベラ(伝家の宝刀:カッター - FC)
- どんなピッチャー?: 近代野球で「カッター」と言えばこの人!キャリアを通じて、ほぼカッターを投げ続け、MLB史上最多セーブ記録を打ち立てた伝説のクローザーです。
- データで見るスゴさ: 彼のカッターは、90mph台中盤(約150km/h台)のスピードながら、バッターの手元で鋭く、でも比較的小さく(数インチ程度)グラブサイドに変化しました。この予測しにくい遅い変化が、特に左バッターのバットを内側でへし折り続けたんです。たった一つの球種でも、究極レベルまで磨けば無敵になれることを証明しました。
- グレッグ・マダックス / ペドロ・マルティネス / ヨハン・サンタナ(魔球:チェンジアップ - CH)
- どんなピッチャー?: 3人とも、球史に残るチェンジアップの達人として有名です。彼らのチェンジアップは、ストレートと全く見分けがつかない腕の振りから投げられ、バッターのタイミングを完璧に狂わせました。
- データで見るスゴさ: 彼らのチェンジアップの秘密は、ストレートとのはっきりとした球速差(10mph=約16km/h以上)と、ストレートの軌道を真似しながら沈んだり、利き腕方向に逃げたりする変化(Movement)にありました。スタットキャストの「平均比較変化量」で見れば、彼らのチェンジアップが、普通のチェンジアップよりもさらにバッターの予測を裏切る動きをしていたことが分かるはずです。彼らは、圧倒的なスピードがなくても、コントロールと変化球の質でバッターを支配できることを見せてくれました。
- ダルビッシュ有 / 大谷翔平(多彩な変化:スライダー/スイーパー - SL/ST)
- どんなピッチャー?: 現代MLBを代表する日本人投手。二人とも多彩な変化球を操りますが、特にスライダーや、最近話題のスイーパーは超強力な武器です。
- データで見るスゴさ: 彼らのスライダー/スイーパーは、大きな変化量(特に大谷選手のスイーパーは横に20インチ=約50cm近く曲がることも!)と、比較的速いスピードが特徴です。スタットキャストのデータは、これらのボールが高い空振り率(Whiff%)や、打たれても質の低い打球(xwOBA on contact)になることを示しています。ダルビッシュ投手は、自身のストレート(フォーシームやシンカー)と大きく変化するスライダーの間のギャップを埋めるために、カッターを効果的に使うことでも知られています。これはまさに、データに基づいたピッチデザイン(投球設計)の良い例ですね。
- ケビン・ゴーズマン / 野茂英雄(伝家の宝刀:スプリッター - FS)
- どんなピッチャー?: スプリッター(日本ではフォークボールと呼ばれることが多い)を決め球として、MLBで大きな成功を収めました。野茂英雄投手は、日本人メジャーリーガーのパイオニアとしても有名ですね。
- データで見るスゴさ: 彼らのスプリッターは、ストレートに近い腕の振りから投げられ、バッターの手元で急激にストンと落ちる軌道が特徴です。スタットキャストのデータで見ると、ストレートとチェンジアップの中間のスピード、非常に大きな縦の変化(ドロップ)、そして**極めて低い回転数(Spin Rate)**として現れます。この低い回転数と急激な落下が、バッターにストレートと勘違いさせ、空振りを量産する秘密なんです。
まとめ
これらの名投手たちは、「半速球」という言葉が持つ様々な要素(球速差、変化、だます技術)を、それぞれの形で最高レベルで体現してきました。スタットキャストは、彼らの技術の具体的な中身を数字で示し、なぜ彼らが成功したのかを、より深く理解する手助けをしてくれます。
次回はいよいよ最終回。これまでの話をまとめ、「半速球」という言葉から始まったデータの世界が、野球の楽しみ方をどう変えていくのかを考えていきます!